B2B企業において新規顧客の獲得コストは年々上昇していると言われています。一方で、すでに取引のある既存顧客に対しては、まだ提案していない製品や、接点を持てていない部門・拠点が数多く残されているケースが少なくありません。こうした「取引はあるが、まだ売れていない領域」を体系的に洗い出す手法が「ホワイトスペース分析」です。
ホワイトスペース分析は、顧客ごとに「何を買っているか」と「何を買い得るか」を一枚のマトリクスで対比し、その空白を営業機会として整理する考え方です。アカウントプランニングやABM(アカウント・ベースド・マーケティング)の実務において、アップセル・クロスセルの起点として活用されることが多いとされています。
ただし、分析の土台となる顧客データや企業データが整備されていないと、空白そのものを正しく描くことができません。本記事ではホワイトスペース分析の定義とビジネスメリット、実務で直面しやすい課題、具体的な進め方、そして推進に必要な役割について解説します。
ホワイトスペース分析とは
ホワイトスペース分析とは、既存顧客に対して「提供可能な製品・サービス」と「実際に導入済みの製品・サービス」を突き合わせ、未導入の領域(ホワイトスペース)を可視化する分析手法のことです。一般的には、縦軸に顧客の購買単位(事業部門、拠点、子会社など)、横軸に自社の製品ラインナップを置いたマトリクスを作成し、各セルの取引状況を色分けして表現します。
市場全体を対象とするTAM(Total Addressable Market)の算出が「まだ顧客ではない企業」を含めて市場規模を捉える手法であるのに対し、ホワイトスペース分析は「すでに顧客である企業」の内側に焦点を当てる点が特徴です。TAMの考え方については、弊社ブログの「データドリブンな営業戦略策定に欠かせない「TAM」とは?」で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
ホワイトスペース分析の主な特徴は以下の通りです。
- アカウント単位での機会の棚卸し
分析の単位は市場や業界ではなく、個々の顧客企業(アカウント)です。1社ごとにマトリクスを作成することで、営業担当者が「次に誰に何を提案すべきか」を具体的に判断できる状態を目指します。
- セルの状態による分類
各セルは「取引中」「商談中」「過去に取引があったが休止」「未接触」といった状態に分類されます。特に「未接触」のセルがホワイトスペースに該当し、優先的に検討すべき候補となります。
- 既存データを起点とした分析
新たな調査を行わなくても、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客関係管理)に蓄積された受注履歴・商談履歴を再構成することで着手できます。そのため、比較的短期間で最初の結果を得られる点が実務上の利点とされています。
ホワイトスペース分析のビジネスメリット
ホワイトスペース分析を実施することで、以下のようなビジネスメリットが得られると言われています。
- アップセル・クロスセル機会の体系的な発見
営業担当者の記憶や勘に依存していた「この顧客にはまだ〇〇を提案していない」という気づきを、組織として一覧化できます。担当者が交代しても機会が引き継がれるため、属人化の解消に繋がります。
- 営業リソースの最適配分
空白セルの数や規模を顧客横断で比較することで、どのアカウントに注力すべきかを定量的に判断できます。既存顧客への提案は新規開拓と比べて受注率が高い傾向にあるとされており、限られた人員を効率的に配置することが可能です。
- 顧客理解の深化とLTVの向上
分析の過程で顧客の組織構造や購買単位を整理するため、顧客の全体像を把握することに繋がります。既存顧客のポテンシャルを診断する考え方は、弊社ブログの「【徹底解説】顧客分析~日本最大級のデータ活用した購買ポテンシャル分析~」でも紹介しており、LTV(顧客生涯価値)の向上という観点で共通しています。
- 営業とマーケティングの共通言語の形成
マトリクスという共通のフォーマットを持つことで、営業部門とマーケティング部門が同じ機会を見ながら施策を議論できます。ABMを推進する企業にとっては、ターゲットアカウントの選定根拠としても機能します。ABMの進め方については「ABMとは?導入の流れや成果を出すための戦略を徹底解説!」をご参照ください。
ホワイトスペース分析の課題
ホワイトスペース分析には多くのメリットがある一方で、実際に運用に乗せるまでにはいくつかの課題が伴います。
- 顧客データの表記ゆれと重複
同一企業が「株式会社〇〇」「(株)〇〇」「〇〇 東京支店」のように複数のレコードで登録されていると、マトリクスの縦軸が正しく定義できません。取引実績が分散して見えるため、実際には取引がある領域が空白として誤って表示される恐れがあります。この問題への対処は弊社ブログ「【DB会社が解説】名寄せとは?顧客データを整備・管理する方法を徹底解説!」で詳しく解説しています。
- 顧客の組織構造の把握不足
ホワイトスペースの縦軸には、顧客企業の事業部門や拠点、グループ会社といった購買単位を置く必要があります。しかし、自社のSFAやCRMには接点のある部門しか記録されていないことが多く、「そもそもどのような購買単位が存在するのか」が分からないケースが少なくありません。
- 静的な分析にとどまってしまうこと
一度作成したマトリクスを更新せずに放置すると、組織変更や担当者の異動によって実態と乖離していきます。分析は一回限りの作業ではなく、四半期ごとなどの定期的な見直しを前提に設計することが推奨されています。
- 空白の優先順位付けが困難であること
空白セルを列挙するだけでは、どこから着手すべきかが判断できません。顧客の事業規模や業種、最近の動向といった外部情報を掛け合わせなければ、提案の見込みが低い領域にリソースを投じてしまう可能性があります。
ホワイトスペース分析のプロセス
ホワイトスペース分析は、一般的に以下のプロセスを経て実行されます。
- ステップ1:対象アカウントの選定
全顧客を一度に分析するのではなく、売上上位や戦略的に重要な顧客から着手します。既存顧客の分析フレームワークについては弊社ブログ「顧客分析とは?売上に直結する16のフレームワークやツールの活用方法までを徹底解説!」が参考になります。
- ステップ2:顧客データの整備と名寄せ
SFA・CRM・請求システムなどに分散した顧客レコードを統合し、法人単位・拠点単位で一意に識別できる状態にします。この段階で表記ゆれや重複を解消しておくことが、後続の分析精度を左右します。
- ステップ3:購買単位(縦軸)の定義
顧客企業の事業部門、拠点、グループ会社などを列挙し、マトリクスの縦軸を作成します。自社に接点がない部門や拠点も含めるために、外部の企業情報データベースで組織構造や拠点情報を補完することが有効です。
- ステップ4:製品ラインナップ(横軸)の定義
自社の製品・サービスを、顧客の購買単位に対して提案し得る粒度で整理します。細かすぎると分析が煩雑になり、粗すぎると機会を見落とすため、営業部門と協議して適切な粒度を決めます。
- ステップ5:セルの状態の記入とホワイトスペースの特定
受注履歴・商談履歴をもとに、各セルを「取引中」「商談中」「休止」「未接触」に分類します。休止セルについては弊社ブログ「休眠顧客を掘り起こす6つのポイント」のような再接触の観点も含めて検討します。
- ステップ6:優先順位付けとアクションへの落とし込み
空白セルに対して、顧客の企業属性・既存顧客との類似性・インテント(興味関心)情報などをもとにスコアを付与し、「追う」「保留」「見送る」に振り分けます。担当者と期限を割り当て、アカウントプランに組み込むことで、分析を営業活動に接続します。
ホワイトスペース分析を実現する上で必要な役割
ホワイトスペース分析を組織として継続的に運用するためには、以下の役割が必要です。
- 営業企画・セールスオペレーション担当
マトリクスの設計、対象アカウントの選定、定期的な更新サイクルの運営を担います。分析結果を営業会議のアジェンダに組み込み、空白セルの進捗を追跡する役割も含まれます。
- データ整備・情報システム担当
SFAやCRMのデータを名寄せし、外部データと連携する基盤を整えます。顧客データを「入り口から整備する」という考え方は、弊社ブログの「【DXの本質 vol. 2】顧客データを入り口から整備することがDXの近道」でも触れています。
- アカウント担当営業
マトリクスに記入された状態が実態と合っているかを確認し、現場の情報を反映します。空白セルに対する提案活動を実行し、結果をシステムに戻すことで分析の鮮度を保ちます。
- マーケティング担当
空白セルのうち、営業が直接アプローチする前にコンテンツやセミナーで関心を醸成すべき領域を担当します。GTM戦略(Go To Market戦略)の観点から、既存サービスのアップセル・クロスセル施策と連動させることが有効です。GTM戦略の考え方は「【チェックリスト公開中】いまさら聞けない「GoToMarket戦略」とは」をご参照ください。
おわりに
本記事のポイントを3点にまとめます。①ホワイトスペース分析とは既存顧客の購買単位と自社製品を対比し未導入の領域を可視化する手法、②顧客データの表記ゆれや顧客の組織構造の把握不足があると空白を正しく描けず分析が形骸化する、③名寄せと外部データによる補完を土台にして定期的に更新し優先順位付けまで行うことが実践の鍵、という点です。
ホワイトスペース分析は、新規開拓に偏りがちな営業活動に対して、既存顧客の中に残る機会を体系的に示す手法です。その成功には、正確な顧客データ、顧客企業の組織構造を含む外部情報、そして分析結果を営業アクションに接続する運用体制が不可欠です。
弊社の顧客データ統合ソリューション「ユーソナー」は、SFAやCRMに分散した顧客データの名寄せを通じて、ホワイトスペース分析の縦軸となる顧客の一意化を支援します。「LBC」という独自のコード体系による顧客情報の管理に加え、独自に収集した企業データにより、自社に接点のない部門や拠点、グループ会社の情報を継続的に補完することが可能です。さらに、ユーザーの興味関心を推察できるインテントデータを掛け合わせることで、空白セルの優先順位付けにも活用いただけます。
詳細についてはぜひこちらのページから、お気軽にお問い合わせください。