近年、新規開拓の効率化を目的として、Web上の公開情報からプログラムで自動的にデータを収集する「スクレイピング」を営業リスト作成に活用する動きが広がっていると言われています。企業サイトや求人情報、業界団体の会員一覧などから社名・所在地・連絡先を集めれば、短期間で大量のリストを作れるという期待があります。
一方で、スクレイピングは「公開されている情報だから自由に使える」という認識のまま進めると、著作権法、個人情報保護法、サイトの利用規約、業務妨害といった複数の法的論点に触れる可能性があります。2026年7月に成立した改正個人情報保護法では、連絡先を含む「個人関連情報」の不正取得が新たに禁止されるなど、営業リストの取得経路に対する規律も強まりつつあります。
本記事では、スクレイピングで営業リストを作成する際に知っておくべき法的論点と、適法性を確保しながら進めるためのプロセスや体制について解説します。
スクレイピングによる営業リスト作成とは
スクレイピングによる営業リスト作成とは、Webサイトの内容をプログラムで自動的に取得・解析し、社名、業種、所在地、電話番号、メールアドレス、担当者名などを抽出して、営業活動に使うターゲット一覧を構築する手法を指します。従来の「検索して1社ずつ企業サイトを確認する」手作業を自動化したものと位置づけられます。
営業リストの一般的な作り方や事前準備については、弊社ブログの【5分でわかる】営業リストの作り方とは? 事前準備からターゲットリスト作成の注意点を解説でも整理しています。
スクレイピングによる営業リスト作成の主な特徴は以下の通りです。
- 公開情報の機械的な収集
企業の公式サイト、求人サイト、業界団体の会員名簿、法人番号公表サイトなど、誰でも閲覧できるページを対象とします。閲覧自体は自由であっても、機械的に大量取得し、データベース化して営業に使う行為は、閲覧とは別の法的評価を受ける場合があります。
- 法人情報と個人情報の混在
B2B(企業間取引)の営業リストには、社名や本社所在地といった法人情報と、担当者名や部署、個人宛のメールアドレスといった個人情報が混在します。日本の個人情報保護法は法人そのものの情報を対象としていませんが、役職者の氏名が含まれた時点で個人情報として扱う必要があると考えられます。
- 取得元サイトとの関係性
収集対象のサイトには、それぞれ運営者が定めた利用規約や、クローラーへの指示を記した「robots.txt」が存在します。スクレイピングは、サイト運営者との契約関係やサーバーへの負荷という観点からも評価される行為です。
スクレイピングによる営業リスト作成のビジネスメリット
法的な論点を整理した上で適切に運用できれば、スクレイピングは営業リスト作成において以下のようなメリットをもたらすと言われています。
- リスト作成工数の削減
手作業では1社ずつサイトを確認して転記する必要がありますが、自動化により数千社規模のリストを短期間で作成することが可能です。営業担当者がリスト作成ではなく、アプローチそのものに時間を使えるようになります。
- ターゲット条件の柔軟な設定
特定の業種、エリア、採用状況、導入技術といった条件で情報を集めることで、自社のGTM戦略(Go To Market戦略)に沿ったセグメントを切り出すことができます。ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)の対象企業選定にも応用できます。
- 情報の鮮度の確保
定期的に同じ収集処理を実行することで、移転や社名変更、担当者の異動といった変化を検知しやすくなります。営業リストの更新サイクルを短くすることは、無駄なアプローチの削減に繋がります。
スクレイピングによる営業リスト作成の法的論点
スクレイピングには上記のメリットがある一方で、着手前に確認すべき法的論点が複数あります。なお、本記事は一般的な整理であり、個別の案件が適法かどうかの判断については、弁護士など専門家への相談を推奨します。
- 著作権法(情報解析と複製の境界)
著作権法第30条の4は、著作物を「情報解析」の用に供する場合など、表現を享受しない目的での利用を一定の条件下で許容しています。また第47条の5は、検索や情報解析サービスに伴う「軽微利用」を認めています。ただし、記事本文や紹介文をそのまま転記して営業資料に流用する行為は、これらの規定の範囲を超える可能性があります。社名や所在地といった事実データ自体には著作物性が認められにくい一方、体系的に構成された一覧は「データベースの著作物」として保護される場合があるため、取得元ごとの確認が必要です。
- 個人情報保護法(公開情報でも取得・利用のルールは適用)
担当者名や個人宛メールアドレスを収集してデータベース化した時点で、その企業は「個人情報取扱事業者」として、利用目的の特定、取得時の利用目的の通知または公表、適正な取得といった義務を負います。公開情報であっても、これらの義務が免除されるわけではないと言われています。さらに、2026年7月10日に成立し同月17日に公布された改正個人情報保護法では、勤務先、電話番号、メールアドレスなど特定の個人への連絡を可能にする「個人関連情報」の不正取得と不適正利用が禁止され、悪質な違反への課徴金制度も導入されました(個人情報保護委員会「令和8年 改正個人情報保護法について」より)。施行は公布から2年以内とされており、政令やガイドラインの整備が進む段階ですが、営業リストの「取得経路の正当性」が問われる方向にあると考えられます。
改正法の4つの柱とB2B企業の対応については、弊社ブログの【2026年9月版】改正個人情報保護法とは? 4つの柱とB2B企業が取るべき対応を解説!で詳しく解説しています。
- 利用規約とrobots.txt(契約上の制約)
多くのWebサイトは利用規約で「自動化された手段によるデータ収集」や「商用目的での二次利用」を禁止しています。会員登録やログインを経て規約に同意している場合、規約違反は契約違反として損害賠償請求やアカウント停止の根拠になり得ます。robots.txtは法的拘束力を持つ文書ではないものの、運営者の意思表示として尊重することが、後述する業務妨害リスクの低減にも繋がります。
- 不正アクセス禁止法と不正競争防止法(アクセス制限の回避)
ログインが必要なページに他人のIDで入る、認証やアクセス制限を技術的に回避するといった行為は、不正アクセス禁止法に抵触するおそれがあります。また、IDやパスワードで管理された有料の企業データベースから取得したデータは、不正競争防止法上の「限定提供データ」に該当する場合があり、無断での取得や第三者提供が不正競争行為とされる可能性があります。
- 業務妨害(サーバー負荷)
短時間に大量のリクエストを送り、対象サイトの応答を遅延させたり停止させたりした場合、偽計業務妨害や電子計算機損壊等業務妨害に問われる可能性があります。2010年の「岡崎市立中央図書館事件」では、1秒に1回程度という常識的な頻度のクローラーであっても、サイト側の障害と結びついて利用者が逮捕された経緯があり(最終的には起訴猶予)、アクセス頻度の設計と対象サイトへの配慮の重要性を示す事例と言われています。
- 特定電子メール法(収集後のアプローチ)
収集したメールアドレスに営業メールを送る段階では、特定電子メール法のオプトイン原則が適用されます。企業が自らのアドレスをWeb上で公表している場合は同意なしに送信できる例外がありますが、「営業目的のメールはお断り」といった送信拒否の旨が併記されている場合は例外に当たらないとされています。送信者の名称や配信停止方法の表示義務もあるため、リスト作成の段階から「どの連絡先に、どの根拠で接触できるか」を区別しておくことが重要です。
スクレイピングによる営業リスト作成を適法に進めるプロセス
上記の論点を踏まえ、スクレイピングによる営業リスト作成は以下のプロセスで進めることが推奨されます。
- 目的と取得項目の特定
何のために、どの項目を、どの範囲で収集するのかを文書化します。個人情報を含む場合は、利用目的をプライバシーポリシー等で公表できる形に落とし込みます。
- 取得元の適法性審査
対象サイトごとに利用規約、robots.txt、ログイン要否、データの著作物性を確認し、収集可否を判定します。判断に迷う取得元は除外するか、公式のAPI(Application Programming Interface)や正規の外部データ提供サービスに切り替えます。
- 技術的な負荷設計
アクセス間隔、同時接続数、実行時間帯を定め、対象サイトの運営に影響を与えない水準に抑えます。収集元と取得日時をログとして残し、後から取得経路を説明できる状態を保ちます。
- 収集データの整備と統制
法人情報と個人情報を分離して管理し、個人情報には保存期間やアクセス権限を設定します。表記ゆれの統一や重複排除(名寄せ)を行い、古い情報の残存によるリスクを減らします。
- アプローチ手段ごとのルール適用
メール、電話、郵送といった手段ごとに、特定電子メール法などの適用関係と送信拒否への対応手順を定めます。運用開始後も、改正法の政令やガイドラインの公表に合わせて手順を見直します。
スクレイピングによる営業リスト作成に必要な役割
スクレイピングによる営業リスト作成を継続的かつ適法に運用するためには、以下の役割が必要です。
- 営業企画・マーケティング責任者
ターゲット条件と必要件数を定義し、収集したリストが営業戦略と整合しているかを判断します。リスト作成の目的を明文化する起点となる役割です。
- 法務・コンプライアンス担当
取得元の利用規約や個人情報保護法への適合性を審査し、プライバシーポリシーの記載や外部専門家への相談窓口を担います。改正法の動向を継続的に把握する役割も期待されます。
- データエンジニア
収集処理の実装に加え、アクセス頻度の制御、ログの保持、法人軸と人物軸を分離したデータ構造の設計を担当します。技術的な配慮がそのまま法的リスクの低減に繋がる領域です。
- 情報システム・セキュリティ担当
収集したデータの保管環境、アクセス権限、保存期間の管理を担います。個人情報を含むリストが社内で無秩序に複製されないよう、統制を仕組みとして実装します。
おわりに
本記事のポイントを3点にまとめます。①スクレイピングによる営業リスト作成とはWeb上の公開情報を自動収集して営業対象一覧を構築する手法、②公開情報であっても著作権法・個人情報保護法・利用規約・業務妨害・特定電子メール法など複数の論点に触れる可能性がある、③取得元の審査と負荷設計を行い法人情報と個人情報を分離して統制することで適法な運用に近づく、という点です。
スクレイピングは営業リスト作成の工数を大きく減らす手段である一方、「公開されているから自由に使える」という前提は成り立ちません。改正個人情報保護法によって取得経路の正当性が問われる流れが強まる中では、自社で収集するデータの範囲を限定し、出所が明確な外部の企業データと組み合わせることが、営業活動の継続性とコンプライアンスを両立させる現実的な選択肢になると考えられます。
弊社の顧客データ統合ソリューション「ユーソナー」は、日本最大の企業情報データベースを搭載しており、独自に収集した企業データを活用頂くことで、鮮度の高い外部情報を継続的に取得することが可能です。「LBC」という独自のコード体系による顧客情報の管理に加え、業種やエリア、企業規模などの条件で営業リストを抽出できるため、スクレイピングに伴う取得元ごとの審査や負荷設計を自社で抱え込むことなく、出所の明確な法人データを営業活動に活用頂けます。
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