企業を相手にするビジネスにおいて、「どの業種のお客さまが自社にとって有望なのか」という問いは、営業戦略やマーケティング戦略の出発点に位置づけられます。この問いに答えるための最も基礎的な道具が「業種分類」と、それを機械的に扱えるようにした「業種コード」です。
一方で実務の現場では、業種の情報が担当者ごとの自由入力で登録されていたり、システムごとに異なる分類が使われていたりするために、集計しようとした段階で初めて使い物にならないと気づく状況も少なくない、と言われています。業種は「どの企業データベースにも入っている当たり前の項目」であるがゆえに、その設計思想や限界が理解されないまま運用されている領域でもあります。ユーソナーが提供する企業データベース「LBC」にも顧客データを管理する上で使いやすいよう、かなりこだわったユニークな業種分類を実装しています。
本記事では業種分類・業種コードの基本的な考え方や、B2Bにおける具体的な活用方法、運用上の課題についてご紹介します。
業種分類・業種コードとは
業種分類とは、企業や事業所が営む経済活動を、その内容の類似性に基づいて体系的に区分した枠組みを指します。業種コードとは、その区分の一つひとつに付与された識別記号であり、人間が読む「業種名」をシステムが処理できる形式に置き換えたものです。
日本における代表的な業種分類が、総務省が定める「日本標準産業分類」です。統計法に基づく統計基準として位置づけられ、政府統計の作成において共通して用いられています。最新版である第14回改定は令和5年(2023年)7月に告示され、令和6年(2024年)4月1日から施行されました。この改定では大分類20、中分類99、小分類536、細分類1,473という構成が採られています(総務省「日本標準産業分類第14回改定の概要」より)。
海外には国際連合が定める ISIC(International Standard Industrial Classification) や北米の NAICS(North American Industry Classification System) があり、国内でも信用調査会社や企業データベース事業者が独自の体系を提供しています。
業種分類・業種コードの主な特徴は以下の通りです。
- 階層構造による粒度の可変性
多くの業種分類は、大分類から細分類へと段階的に細かくなる階層構造を採用しています。日本標準産業分類では大分類はアルファベット、中分類は2桁、小分類は3桁、細分類は4桁の数字で表現されます。上位の桁を切り出すだけで粗い集計に切り替えられるため、経営報告では大分類、営業リスト作成では小分類、といった使い分けが可能です。
- 事業所単位という分類原則
日本標準産業分類は、企業単位ではなく「事業所」という場所的単位ごとに適用される点が基本原則とされています。複数の活動を行う事業所は、付加価値額などを基準に「主要な経済活動」を特定して分類が決定されます。純粋持株会社が「学術研究、専門・技術サービス業」に分類される、といった特例も定められています。
- 公的分類と民間分類の併存
公的分類は統計作成を目的として設計されているため、営業やマーケティングの実務では粒度が合わない場合があります。そのため民間の企業データベース事業者は、実務上の使いやすさを重視した独自の業種体系を、公的分類と対応づけたうえで並行提供することが一般的です。
業種分類・業種コードのビジネスメリット
業種分類・業種コードを整備することで、以下のようなビジネスメリットが得られると言われています。
- 市場全体の可視化と TAM(Total Addressable Market:獲得可能な最大市場規模) の把握
自社が獲得しうる市場の全体像は、業種という軸で切ることで初めて具体的な数字になります。業種別の企業数や事業所数を分母に置くことで、「この業種にはまだ何社の未接触企業が残っているか」という問いに定量的に答えることが可能です。
- 顧客データの共通言語化
部門ごとに業種の定義が異なると、同じ「製造業向けの成果」という言葉が異なる母集団を指すことになってしまいます。統一された業種コードは、部門やシステムをまたいだ SSOT(Single Source of Truth) を形づくる基礎的な要素の一つとされています。
- 勝ちパターンの再現性向上
受注実績を業種別に集計することで、成約率や平均単価、リードタイムの傾向が業種ごとに可視化されます。成果が出ている業種の共通項を抽出し、同じ業種の未接触企業へ横展開する再現性のある活動設計(営業作戦)が可能になります。営業担当者個人の経験に依存していた判断を、組織の資産へ転換することに貢献します。
B2Bにおける業種分類・業種コードの活用方法
業種分類・業種コードは、法人営業、顧客管理、B2Bマーケティングのそれぞれの領域で具体的な活用余地があります。代表的な活用方法は以下の通りです。
- ターゲティングと ABM(アカウント・ベースド・マーケティング:重要顧客を特定、優先してアプローチする営業マーケティング戦略)の設計
ABM では、狙うべき企業群を事前に定義することが起点となります。既存顧客の業種構成と成約率から成果の出やすい業種を特定し、同一業種かつ一定規模以上の未接触企業をターゲットリストとして抽出する進め方が一般的です。業種コードで管理されていれば、この抽出を機械的かつ再現可能な形で実行することが可能です。
- リードスコアリングと優先順位付け
獲得したリードのすべてに同じ工数をかけることは現実的ではありません。業種は、企業規模や役職と並んで、自社製品との適合度を推し量る有力な変数の一つです。過去の受注データから業種別のスコアを設計しておくことで、インサイドセールスが着手すべき順番を客観的な基準で決めることに繋がります。
- 顧客管理におけるホワイトスペースの発見
既存顧客を業種別・地域別に集計すると、自社が強い領域と手薄な領域が浮かび上がります。特定の業種で高いシェアを持ちながら隣接する業種には接点がないといった構図が見えれば、次に投下すべき営業リソースの方向が定まります。既存顧客の系列企業への展開余地も、業種軸での棚卸しによって把握しやすくなります。
- セグメント別のコンテンツ配信とパーソナライズ
B2Bマーケティングにおいて、業種は訴求内容を切り替える最も実用的な単位の一つです。例えば、同じ製品であっても製造業には生産管理の文脈で、金融業にはコンプライアンスの文脈で語る方が響きやすい、と言われています。MA(マーケティングオートメーション)のセグメント条件に業種コードを組み込むことで、運用負荷を抑えながら配信の出し分けを実現できます。
- 営業組織の設計と売上ポートフォリオの管理
業種別の市場規模と自社シェアが把握できれば、担当領域や目標設定を、勘ではなく市場ポテンシャルに基づいて配分することができます。業種は景況の影響を受ける単位でもあるため、売上構成を業種別に把握しておくことは、特定業種への依存度を測る観点からも有用であると考えられます。
これらに共通するのは、業種コードが「分析の軸」であると同時に「実行の条件式」でもあるという点です。分析結果を眺めるだけで終わらせず、リスト抽出や配信条件にそのまま接続できる状態にしておくことが、成果に繋がる運用の要件となります。
業種分類・業種コードの課題
業種分類・業種コードには多くのメリットがある一方で、実務での活用にはいくつかの課題が伴います。
- 「その他」への集中と実務上の粒度不足
公的分類は網羅性を重視して設計されているため、どの項目にも当てはまらない事業を受け止める「その他」の区分が多く設けられています。結果として、細かく分類したはずが「その他」に企業が集中し、ターゲティングの実用性が下がるという指摘があります。実務では、公的分類とビジネス視点で再編した独自分類を併用する対応が採られることもあります。
- 事業所単位と企業単位のずれ
公的分類が事業所単位を原則とする一方、法人営業の現場が把握したいのは「取引相手としての企業」であることが少なくありません。多角化した企業グループや純粋持株会社では、代表となる業種一つで実態を表現しきれず、事業部単位での接点を取りこぼす可能性があります。企業・事業所・部門のどの階層で業種を持つのかを、あらかじめ定義しておく必要があります。
- 入力ゆれと自己申告による精度低下
Web フォームや名刺情報から業種を自由入力で取得している場合、同じ業種が異なる表記で登録され、集計の段階で分断されます。プルダウン形式であっても回答者の解釈によって選択がぶれるため、自己申告の情報だけで一貫した分類を維持することは難しいと言われています。
- 改定への追随と鮮度の劣化
業種分類は定期的に改定されるため、社内に蓄積したコードが旧基準のまま取り残されると、時系列での比較ができなくなります。加えて企業側も、事業転換や M&A(Mergers and Acquisitions) によって主たる事業を変えていきます。業種情報は静的な属性ではなく、更新が前提のデータとして扱うことが求められます。
業種分類・業種コードを整備するプロセスと必要な役割
業種分類・業種コードの整備は、以下のプロセスを経て進めることが効果的とされています。
- 分類基準の決定
公的分類をそのまま採用するのか、実務に合わせた独自分類を設けるのか、両者を対応づけて併用するのかを最初に決めます。あわせて、どの階層まで保持するのか、企業単位と事業所単位のどちらを主とするのかも定義します。
- 既存データの棚卸しとクレンジング
現在保有している顧客データに、どの程度の業種情報が入力されているかを可視化します。表記ゆれの統一と重複レコードの名寄せを行い、同一企業が複数レコードとして存在していないかを確認する工程が前提となります。
- 外部データベースとの突合による付与
自社が保有していない業種情報は、外部の企業データベースと突合することで補完します。企業名と所在地の組み合わせや、企業を一意に識別するコードを用いて紐づけることで、未入力レコードにも一括で業種を付与することが可能です。
- システムへの実装と定期メンテナンス
付与した業種コードを CRM(顧客関係管理)や MA に反映し、以降の新規登録では自由入力を避ける設計に切り替えます。入力フォームで企業名から属性を自動補完する仕組みを取り入れ、更新頻度と責任者を決めておくことで、現場の負荷を増やさずに精度を保つことができます。
これらを進める上では、以下の役割が必要になります。
- データオーナー(営業企画・マーケティング部門)
どの粒度でどの業種を区別する必要があるのかを、実際の施策から逆算して定義する役割です。分類設計を情報システム部門だけに委ねると、統計的には正しくても施策に使えない体系になりやすいと言われています。
- データエンジニア・情報システム部門
外部データベースとの連携、コードの付与処理、各システムへの反映を実装する役割です。API(Application Programming Interface) による自動連携を設計することで、手作業による更新漏れを抑えることができます。
- データガバナンスの責任者
分類基準の改定判断、更新頻度の管理、部門間で定義がずれた際の裁定を担う役割です。業種分類は関係部門が多いため、意思決定の窓口を一本化しておくことが継続運用の鍵となります。
おわりに
本記事のポイントを3点にまとめます。
①業種分類とは経済活動を類似性で区分した枠組みであり、業種コードはそれを機械処理可能にした識別記号
②公的分類は事業所単位で「その他」も多く、入力ゆれや鮮度劣化により実務では精度を保ちにくい
③外部データとの突合と入力ルールの整備により、分析と施策実行の両方に使える状態を維持できる
です。
業種分類・業種コードは、B2B取り引きにおける顧客理解を組織全体で共有するための共通の物差しです。ターゲティング、リードの優先順位付け、ホワイトスペースの発見、セグメント別の訴求といった施策は、いずれも精度の高い業種情報があって初めて成立します。その運用を継続するためには、分類基準の明確な定義、外部データによる補完、更新を担う体制の3点が不可欠です。
弊社の顧客データ統合ソリューション「ユーソナー」は、日本最大の企業データベース「LBC」を搭載しています。LBCには、業種をはじめとする企業属性が統一された基準で保持されています。「LBC」独自のコード体系による顧客情報の管理に加え、日本標準産業分類に準拠した業種情報と、実務での使いやすさを重視した独自の業種体系「良業種」を並用いただけます。ユーソナーが独自に収集した業種区分をふくむ鮮度の高い外部情報を、継続的に取得いただくことが可能です。
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