ユーソナーとしてお客様の企業の顧客データの整備や統合・活用のご支援をしていると、データの受け皿(システム)の選定やセットアップ(構築)、社内の既存システムの連携性についての相談を受けることが多くあります。そのなかでよく課題となるキーワードが、「MDM」と「CDP」です。今回は、この2つのキーワードについて掘り下げます。
顧客データの統合を目的としたシステム選定において、MDM(Master Data Management:マスターデータ管理)とCDP(Customer Data Platform:カスタマーデータプラットフォーム)は、いずれも有力な選択肢として比較検討の対象となります。市場の選択肢は年々増えており、比較資料やチェックリストも数多く公開されていると言われています。一方で、片方のカテゴリ向けに作られたチェックリストをそのまま流用してしまい、本来確認すべき要件が抜け落ちたまま契約に至るという声も少なくありません。
MDMとCDPは管理対象データの性質も、主管部門も、求められる更新頻度も異なるため、評価軸そのものを分けて設計する必要があります。
本記事ではMDMとCDPの選定チェックリストがどのように異なるのか、そして失敗を避けるための進め方について解説します。
MDMとCDPを選ぶ前に整理すべきこと
製品の比較検討を始める前に、以下の要素を社内で整理することが重要です。整理が不十分なまま比較に入ると、機能表の充実度で判断してしまい、自社の課題と接続しない選定になりやすいと言われています。
- 解決したい課題の所在
重複データによる営業活動の非効率が課題なのか、施策単位での顧客理解の不足が課題なのかを切り分けます。前者はMDM、後者はCDPの守備範囲に寄る傾向があります。
- 対象データの性質と粒度
取引先コードや商品コードのような静的な基準データを扱うのか、Web行動履歴のように時系列で蓄積される動的データを扱うのかを明確にします。扱うデータの性質が、必要となるアーキテクチャを規定します。
- 主管部門と意思決定者
MDMは情報システム部門が主導し、全社的なデータ統制を目的とすることが一般的です。一方でCDPはマーケティング部門が主導し、施策実行と成果創出を目的とすることが多い領域とされています。
- 既存環境と連携すべきシステム
ERP(Enterprise Resource Planning:統合基幹業務システム)、CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)、MA(マーケティングオートメーション)、SFA(Sales Force Automation:営業支援システム)、DWH(データウェアハウス)、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールなど、接続対象を洗い出します。接続性は導入後に効いてくるため、選定段階での確認が推奨されます。
- 運用体制と担当者の確保
MDMではデータオーナーやデータスチュワードといった役割の設置が前提となります。CDPではセグメント設計と施策運用を担う人員が必要です。運用者を確保できるかどうかが、導入の成否を左右します。
- 予算と投資回収の考え方
初期費用、ランニング費用、PoC(Proof of Concept:概念実証)コストの内訳を想定します。効果の測り方を先に社内で合意しておくことが、選定後の説明責任に繋がります。
MDM選定で押さえるべき6つの基準
上記の整理が済んだら、以下の観点で候補を比較します。自社のユースケースに照らし、各基準に重み付けをして評価表を作成することが推奨されます。
- データモデルの柔軟性と拡張性
自社固有の項目や階層構造を、追加開発なしで表現できるかを確認します。管理対象ドメインを顧客から取引先、商品へと段階的に広げる想定であれば、後からドメインを追加できる構造かどうかが重要です。
- 名寄せ・マッチングの精度と説明可能性
表記ゆれ、旧社名、本支店の関係をどこまで吸収できるかを、自社データで検証します。あわせて、なぜ同一と判定したのかを人が確認できる仕組みがあるかも評価対象となります。
- データガバナンス機能の充足度
変更申請から承認までのワークフロー、権限設計、監査証跡の保持といった機能が備わっているかを見極めます。内部統制やコンプライアンス対応が導入目的に含まれる場合は、特に重視すべき基準です。
- 既存基幹システムへの配信・同期方式
レジストリ型、集中管理型、共存型のいずれのアーキテクチャに対応するかにより、既存システムへの影響範囲が変わります。同期の方向とタイミング、障害時の挙動まで確認しておくことが望まれます。
- 外部データとの接続性
自社データだけでは、企業の統廃合や本社移転といった変化を追い切ることは困難です。外部の企業情報データベースと接続し、鮮度を維持できる構成を取れるかが判断材料となります。
- 運用負荷の現実性
導入後に発生する名寄せ結果の目視確認や例外処理の量は、製品によって大きく異なります。想定される月次の運用工数をベンダーに提示してもらい、社内の体制と照らすことが重要です。
CDP選定で押さえるべき6つの基準
CDPの選定では、MDMとは異なり「施策をどれだけ早く、どれだけ柔軟に回せるか」が評価の中心となります。同じチェックリストを流用せず、以下の観点で評価表を組み替えることが推奨されます。
- データ収集とID統合の範囲
オンラインとオフラインの双方のデータを取り込めるか、標準コネクタが用意されているかを確認します。B2B領域では個人単位に加えて、法人単位・事業所単位での統合ができるかが重要な差になります。
- リアルタイム性への適合度
秒単位の即時反映が必要な領域と、日次バッチで十分な領域を切り分けた上で、要求水準に合う処理方式かを評価します。必要以上の即時性を求めると、コストが膨らむ可能性があります。
- セグメント作成の内製度
SQL(Structured Query Language)の知識がなくても現場担当者がセグメントを作成できるかどうかは、施策のスピードに直結します。作成したセグメントを他部門と共有・再利用できる仕組みの有無も確認します。
- アクティベーション連携の広さと双方向性
MAや広告配信基盤、SFAへ結果を渡せるかに加えて、施策の実行結果を書き戻せるかを見極めます。双方向の連携が可能であれば、効果測定と次の施策設計を同じ基盤の上で完結できます。
- 同意管理とプライバシー対応
取得経路ごとの同意状態の保持、削除要求への応答、アクセス制御の粒度を確認します。個人情報保護法についてはいわゆる3年ごと見直しに基づく制度改正が進められており(※1)、要件の変化に追随できる製品かという観点も有効です。
- コスト構造の予測可能性
レコード数課金、データ量課金、実行回数課金など、料金体系は製品によって異なります。データが増えた際のコストの伸び方を試算し、TCO(Total Cost of Ownership:総所有コスト)で比較することが推奨されます。
選定プロセスの進め方
MDMとCDPのいずれを対象とする場合も、選定は以下のプロセスで進めることが効果的とされています。評価軸は分けつつ、進め方の型は共通で運用することができます。
- 要件定義
前節までに整理した項目を、社内で合意できるドキュメントとして固めます。この段階でMDM要件とCDP要件を明確に分けておくことが、後工程の混乱を防ぎます。
- ロングリスト作成
候補となる製品をフラットに並べます。情報源としては、業界アナリストのレポートやレビューサイトが挙げられます。
- ショートリスト化(RFI)
RFI(Request For Information:情報提供依頼)により、必須要件への適合状況を確認し、候補を3〜5社に絞り込みます。この段階では機能の網羅性ではなく、除外条件に該当しないかどうかを基準とすることが効率的です。回答期限と様式を統一しておくことで、比較作業の負荷を抑えられます。
- 提案依頼(RFP)
RFP(Request For Proposal:提案依頼書)を配布し、価格、実装計画、サポート体制を横並びで比較します。同時に検討する場合でも、RFPは対象ごとに分けて作成することが望まれます。
- PoC/トライアル
最重要ユースケースを2〜3件選び、本番相当のデータで検証します。評価軸と合否ラインを事前に数値で定義しておくことが重要です。
- 最終選定と合意形成
投資判断者、利用部門、情報システム部門の三者で合意を形成します。運用開始後のレビュー頻度と責任者も、この段階で決めておくことが推奨されます。
よくある失敗パターンと回避策
選定の現場でよく見られる失敗パターンと、その回避策は以下の通りです。
- チェックリストの流用による要件の欠落
CDP向けの評価軸でMDMを評価すると、ガバナンス機能や承認ワークフローの確認が抜けやすくなります。回避策として、評価表を対象ごとに分けて作成し、共通項目と固有項目を区別することが有効です。
- 名寄せ精度の可否のみによる評価
「名寄せ対応」と記載されていても、実際の精度は製品によって大きく異なります。そのため、自社データのサンプルを用いて統合率と誤って同一と判定した割合を実測し、数値で比較することが推奨されます。
- リアルタイム要件の過剰設定
すべてのデータに即時性を求めると、コストと運用負荷が想定を超えて増大します。これを避けるには、ユースケース単位で必要な鮮度を定義し、日次バッチで足りる領域を明確に切り出すことが有効です。
- 運用体制の設計を欠いた導入
導入後にデータ品質を維持する担当者が不在となり、時間の経過とともに精度が劣化する例が見られます。対策としては、選定時点で運用者、責任者、レビュー頻度を定義しておくことが求められます。
- 契約条件の確認の後回し
解約時のデータ持ち出し可否や、保存データの取り扱いは、後から交渉が難しくなる領域です。RFPの段階で解約時のデータエクスポート要件を明記しておくと、後工程のリスクを抑えられます。
おわりに
本記事のポイントを3点にまとめます。
①MDMとCDPは評価軸そのものが異なる選定対象
②片方のチェックリストを流用すると重要な要件が抜け落ちる
③対象ごとに評価軸を分けPoCで数値検証することで選定精度が高まる
MDMとCDPの選定は、単なるツール比較ではなく、自社のデータ活用をどう推進するかという議論そのものです。どちらか一方を選ぶ構図で捉える必要はありません。正確なマスターデータを整えた上で施策に活用するという流れの中で、自社が今どの工程に課題を抱えているのかを見極めることが出発点となります。本記事で紹介した基準とプロセスを押さえることが、失敗の確率を下げることに繋がります。
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※1: 個人情報保護委員会「いわゆる3年ごと見直しの経緯」
https://www.ppc.go.jp/personalinfo/3nengotominaoshi/