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2010年07月16日

『アイデアのつくり方』 ジェームズ.W.ヤング著 TBSブリタニカ

ほとんどすべての人が、ナレッジワーカーとなってしまったらしい現代の社会では、"アイデアの創出法"は、普遍的な悩みになってしまいました。

原著初版は、70年前の1940年。これ以降、すべての発想法の本は、これを参考にしているとも言われる著作です。

この本、ご存じの方も多いはずですが、特徴的なのはそのシンプルな記述。日本版は解説などで、100ページほどになっていますが、本文は60ページもありません。小さな本なので、1ページに組まれている活字もごく僅か。ポイントになるページだけ拾い読むなら10ページもないでしょう。

それでいて何故、名著として読み続けられるのでしょう?

この本の内容を私なりに以下のようにまとめてみました。
 -訳文をそのまま抜粋すると意味が取りにくいので少し書き換えています-

<アイデアが産まれる原理>
アイデアとは、既存の要素の新しい組合せ以外の何者でもない。そして、アイデアを産むためには、事物の関連性を探る思考力(心の習性)を鍛錬する必要がある。

<アイデアを産むプロセス・方法>
(1)体系的に必要な資料(情報)を収集する 
(2)情報を常に考える・咀嚼する
(3)問題を放棄する・無意識の創造過程に委ねる
(4)アイデアが誕生する
(5)アイデアの検証・有効化への努力

シンプルな記述ですが、(1)のプロセスは、ある部分、半生の仕事であり、果てなく続けるべきこと、(2)はあらゆる関連・組合せを"絶望するまで"考え続けよ。絶望したときに、無意識の創造過程が拓けるのだ。などというような過酷なことが書いてあり、高名な広告人であった著者自身、この方法は、説明は簡単だが、実行は困難なので、この本を読んだからといって自分のライバルが急に増えることはないだろうと記しています。


とはいえ、このプロセス自体は、経験的には納得がいくけれども、あまりにも当たり前すぎる。と思う人が多そうなことは確かですし、これは、この通りにやれば成果が出る方法論なのか、いや、優れたアイデアがうまれたケースを後付けでプロセス分けしただけなのかなどの疑問もだされているようです。

さて、アイデアの作り方の本質のみが記された本書のご紹介ですから、ここから長々と私の感想を書くことはやめましょう。もともとは広告界に生きる人を対象に書かれた本書の内容は、自然科学を含む多くの世界でも受容されてきている訳ですが、今回、この本を読み返して、この内容を組織や社会全体で考えた場合、どうなるのかな。と思ったりします。

いま、新たなアイデアによって人を喜ばせる・熱狂させる商品やサービスが出せない組織や社会が存在するとしたら、どのプロセスに問題があるのでしょうか?

                                                            <記:古沢>

と、まあ、↑のように大上段にふりかぶらなくても、この本、クリエイティブ系・マーケティング企画系の職にある程度の経験を持つ人であれば、この本を知らないことは、内容をどう評価するかは別としてあり得ない話です。"ローマの休日"を知らない映画評論家のようなものだといっておきましょう。

知らなかった人、知ってたフリをしてください。

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(写真)パソコン・キーボードの上の 『アイデアのつくり方』 ISBN4-484-88104-7
パソコンもインターネットもない時代の本なので、情報の整理は"小さなカード"でおこなうことが推奨されています。


*で、結局、余談:上で、"ローマの休日"って書いちゃいましたが、この映画、原題がRoman Holidayというのは知っていましたけど,Roman Holiday には Holidays in Roma とは、全く違う意味があるのだそうです。Roman Holiday は成句で、人の犠牲の上で成り立つ楽しみのこと。コロッセウムで奴隷同士、生死をかけて戦わせたローマ人に由来する言葉。アン王女の苦しみは、最初のタイトルバックから表現されていて、英語圏の人や教養人なら最初から解るものなのだそうです。(これ、私は、つい5日前に知りました。何十年を知らずに過ごしてきたことか。。。)